最高級のスペインラムを使用したライダースジャケットです。よくあるライダースのパターンとは異なり、テーラードジャケットに用いられるパターンを参考にカッティングしました。なので、ライダースと言いながらバイクに乗るのには向いてないかもしれませんね。
ディテールにもこだわっていますが、それでいて一見するとシンプルです。デニムよりスラックスとの相性が良いライダースを目指しました。
画像多めです。後から読み込まれる設定になっているので、ゆっくり読んでいただけるとちょうど良いと思います。
ライダースジャケットの筋書き。
- 「逃げる」フロント
- 少し長めの裾
- ベルトレス
- 腰ヨークのないシンプルな後ろ姿
- ファスナー比翼
まず、ファスナーを開けたときのバランスは最も気をつけています。本来はNGなのですが、若干「逃げる」感じのパターンにしてみました。また、通常のライダースであれば腰よりも上に裾がありますが、今回はベルトが隠れるぐらいの着丈で製作しました。
ダブルブレストのライダースといえば男臭いイメージが多少ありますが、ちょっと着丈を長くするだけで上品な印象に変わります。ベルトレスなので丈と相まっていわゆるロンジャン(ライダースのロンドン型)に近い形だと思います。
そして、後ろ身頃は後ろ中心の切り替えと肩ダーツのみのシンプルな構成です。後ろから見たらライダースには見えないかもしれません。あとで詳しく見ていきますが、ファスナーを閉めたときは縫製を工夫することでファスナーが見えないようにしています。
ディテールの型録。
ジャケットの顔。

ラペルはジャケットの顔ともいえる部分で、このデザイン次第で印象がガラッと変わります。Vゾーンはタイトにして、少しノッチを下げることでバランスをとっています。
玉縁のファスナー。

通常であれば生地と生地の間にファスナーを挟み込んで縫うのですが、このジャケットでは両玉縁ポケットの要領でファスナーを取り付けました。ラペルの内側にファスナーがくることで比翼にもなるし、デザイン上のアクセントにもなります。
後述しますが、ファスナーの下にはシルクテープを縫い付けています。シルクは滑りも良く、何より光沢が美しいです、
ずらしたスナップボタン。

スナップボタンはあえてずらしています。あまり使われることのない、ジャケットのラペルに付いているフラワーホールのようなイメージです。パターン上でラペルの折り返り分のゆとりを追加してあり、ボタンで抑えなくても自然にラペルが返るので問題はありません。
そもそもラペルのスナップボタンはバイクに乗っているとき、風でラペルがなびかないようにと付けられたものだと解釈していますが実際はどうなのでしょうか。
ライダースに月腰を。
上衿には月腰を追加しました。ウールのジャケットだと蒸気でいせ込むことで首回りの立体感を出せますが、レザーの場合はそう簡単にいせられません。そこで便利なのが、この月腰です。
これを入れるだけで首回りのフィット感が増します。また、衿を立てた時の支えにもなって一石二鳥。
くびれを形作るもの。
フィレンツェ風サイドダーツ。

このジャケットは前身頃と後ろ身頃の2面で構成されています。現代では細腹が付いた3面構成が主流です。
今回はオーダーメイドのジャケットによく見られる仕様で、袖下の辺りからポケットの辺りまで1本のダーツが入っています。このダーツを追加することにより、胸から腰にかけてなだらかなくびれが生まれます。
見出しでフィレンツェ風と言ったのは、フィレンツェで仕立てられるスーツは2面構成でサイドダーツ1本のみというスタイルが多いからです(+カッタウェイのフロント)。フロントに縫い目が表れないエレガントなデザインともいえます。
ヨークの代わりに肩ダーツ。

肩甲骨の頂点から垂直に1本のダーツを入れています。
肩周りのゆとりはダーツ分をヨークで取ったり、他の箇所に分散させることで確保できます。しかし、なんだかんだ言っても結局シンプルなダーツが綺麗なシルエットを生み出すと思います。
肩甲骨を頂点としてどこにダーツを繋げるかはデザイン次第です。今回はヨークの延長線上にあったけど途中で消失してしまったイメージで入れてみました。某ブランドのデザインっぽくなりましたね。。
ririのイカしたファスナー。

ファスナーにはriri製のファスナーを採用しました。
ririとは80年以上の歴史があるスイスの老舗メーカーです。日本だとYKKが圧倒的に有名なので、あまり目にする機会はないかもしれません。実際、YKKと比べると高価でなかなか売っていません。
しかし正直に言えば、YKKの方が丈夫で滑りもいいです(何より安い)。でも、ririのファスナーにはなんとも言えない雰囲気があるのも事実です。個人的には多少使いにくくてもririのファスナーを愛用しています。
- ムシ幅(布テープなどに縫いつけられた歯):6mm
- 色:ガンメタル
- スライダー:Kタイプ(丸くくり抜かれたもの)
色がちょっと剥げていて銅色が見えていますが、それが渋くてGood。
きらりと輝くシルクテープ。

ファスナーの下の部分にはシルクテープ(巻きで売っているタイプ)を縫い付けています。ファスナーの周辺は重なりが多く、できるだけ薄くしなければなりません。そこで候補に上がったのが、このシルクテープと裏布、スレキです。
耐久性を考えるとスレキでも良かったのですが、せっかく最高級のラムレザーが手に入ったということもあり、最も高級感の溢れるシルクテープを選びました。あえてムシの先端から3mmぐらい出すことでシルク特有の光沢がアクセントになっています。
ライダース×雨降り袖。
ライダースでは珍しい雨降り袖です。
雨降り袖とは袖山を低くして袖のいせ分量を多くしつつ、縫い代を身頃側に倒すことによって生まれるシワのある袖のことです。一般のセットインスリーブよりも運動性に優れています。
また、肩パッドを省いているので軽い肩周りが特徴です。
縫いながら思ったのですが、皮革って意外といせられるものなんですね。パターン上では大丈夫か心配でしたが、逆にもう少しいせ分量を増やしても問題なかったです。ちなみに、レザーはいせ分量を縮めるためのぐし縫いができません。代わりにホチキスを使い、直接いせを入れていきます。
雨降り袖はナポリで作られたジャケットにおけるディテールとして有名です。Raffanielloさんによると現地ではそうでもないとか。。
裏勝りな袖裏。
袖裏にはシルク100%の裏地(オカダヤで購入)を使用してます。滑りがよく、どんなインナーの生地でもスルッといきます。また、脇の下にあるのは脇刺しと呼ばれる刺繍の一種です。
裏地がすり切れるのを予防する意味があると言われています。効果のほどは?です。。装飾的な意味合いが強いですね。
手ぶらで歩けるポケット過多。
このジャケットでは合計10個のポケットを配置しています。
ポケットの数としては十分すぎる量ですが、やっぱりレザージャケットは手ぶらで歩くのがカッコいいと思っているのでそうしました。カバンを肩に掛けるとレザーが痛むのが目に浮かびます。
ちょっと多いですが、それぞれ特色あるポケットなので1つずつ説明していきます。
手を突っ込むためのポケット。
手を入れて温めるためのポケット(ハンドウォーム)です。
通常のライダースの場合は丈が短いので、パンツの方に手を突っ込むことが多いかと思います。しかし、今回は丈が多少長いのでジャケットに手を入れる設定に。具体的には手を入れやすいよう角度と長さにこだわりました。また、ポケット幅は細めに設定しています。
外からは見えない箇所ですが、ポケットの裏地には起毛されたスレキを使用。フカフカして暖かいのが特徴です。袋布は手の大きい人でも問題ないように、深めの設計にしています(裾まで続く)。
キャッシュレス時代にコインポケットを。
通常、上前身頃にコインポケットは付くことが多いですが、このジャケットでは下前身頃に配置しました。ファスナーを閉めた時にポケットが隠れるので、よりミニマルに見えます。
また、フラップの裏側は縫い代をカットして千鳥がけでまつっています。そうすることにより、革の厚みを抑えてフラップが開きやすくなります。ポケット自体は片玉縁です。皮革は布地とは違う仕立て方ですが、比較的簡単に縫えるのでオススメのポケットです。
忍びやかなポケット。
ポケットは雄弁に語ります。
ファスナーを利用した隠しポケットです。あまり使うことはないとは思いますが、ロマン枠ということで。作り方はシームポケットに似ています。ポイントはポケットの幅で、ラペル止まりからファスナー止まりの直前まで開くようにしています。パスポートなどの貴重品を入れるのに重宝しそうです。
贅沢なお台場仕立て。

最近のテーラードジャケットではよく見られるお台場仕立てです。しかし、レザージャケットではほとんどこういった仕立て方はされません。それはなぜか。
そうです、通常の見返しに比べて生地を2倍近く使うからです。特にレザーの場合は生地単価も高く、個体差があるので上手くインレイできるとは限りません。
裁断する段階で、もし生地が足りなければ通常の見返しにするつもりでした(接ぐと厚みが出るから)。幸運にも、生地の用尺ピタリで贅沢な使い方ができました。
諸々のインサイドポケット。
時代遅れのチケットポケット。

右見返しの3つあるポケットのうち、1番上にあるのがチケットポケットと呼ばれるものです。
チケットではなくICカードが主流になった今ではさほど需要はないかもしれません。何を入れるかは自由ですが、個人的には名刺入れにちょうど良いと思います。ポケット口はもみ玉縁と呼ばれる手法で作りました。
分かる人には分かる剣玉縁ポケット。

左見返し上のポケットは剣玉縁と呼ばれるポケットです。両端が尖っているのがわかると思います。土台の縫い代を割らなくてもいいので、分厚い生地に向いた仕立て方です。
多分そうとうマニアックな服でないとお目にかかれないポケットの一つだと思います。というのも、機械ではできない方法であり、綺麗な三角形を作るのには高い技術力が要るからです。しかも、ほとんど両玉縁ポケットと見た目は変わらないですからね。。
シガーポケット改め、スマホポケット。

本来はタバコを入れるためのポケットですが、禁煙化が進んでいる昨今ではその意味も薄れてきています。現代ではスマートフォンを入れたりする場合が多いようです。
飾り気のない裾。
ライダースは後ろ身頃の裾に腰ヨークが付くものが多いですが、今回は採用せずに裏地を裾まで延長しています。また、裏地にはオーダーメイドの紳士服に用いられることの多い、キュプラとポリエステルの交織生地を採用しました。
サイズや生地について。
肩幅 | 44cm |
身幅 | 49cm |
着丈 | 77cm |
袖丈 | 63cm |
- 1点もの
- ユーズド
最高級のスペインラムを使用。生地代だけで7、8万円はしました。きめ細かく、非常に柔らかい素材なので長く愛用していただけると思います。
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