前回はジャケットについての記事を書いたので今回はスラックスについてです。
それではさっそく見ていきましょう!
スラックスの進化系。
ご覧のとおり、無駄な装飾を削ぎ落とした非常にシンプルなデザインです。前回作ったスラックスを更に改良させました。
- 前立てに角度をつけて腰に巻きつくように
- 脚部の捻れを強くしてより3Dに
- パンチェリーナを追加
分かりにくい部分ですが簡単に言うと、着用した時にストレスがかからないように心がけました。螺旋階段のようなイメージで考えてもらうと分かりやすいかもしれません。
見た目のデザインに関してはあまり変えていません。
進化したディテールたち。
細さを追求したポケット。
ポケットはジャケットの内ポケットと同様のもみ玉縁ポケットです。口布には裏地を使用しました。これだけ細いと玉虫感が出ないのが残念ですが:(。
ちょっとしたポイントとして手が入りやすいように微妙にポケット口を緩やかにカーブさせました。両玉縁でもカーブできないことはないですが、口幅が狭いもみ玉はこのような曲線にも対応しやすいのが特徴です。あくまでも生地の布目をずらさないように慎重に行います。
向こう布には生地のミミを使っています。通常はパイピングやロックミシンで処理される箇所ですが、ミミを使えばそういった手間は省け、ほつれる心配もないのでおすすめです。
生地の銘柄も織られているのでデザインポイントにもなります。
あえて留めない前あき。
前あきは中心からオフセット(相対的に移動)してあります。これには理由があり、前提としてこのスラックスはジッパーもなければボタンフライでもありません。つまり、前あきの間を留めませんが、天狗を幅広で作っているのと前あきがオフセットしてあることにより下着が見える心配はありません。
むしろファスナーやボタンの厚みがないのでスッキリして見え、適度な可動域があることにより快適に履くことが可能です。
パンツェリーナ(パンツ内部の持ち出し)とホックで二重にウエストを固定するので安定感もあります。腰で引っ掛けるようなイメージです。腰履きに慣れてない人は初め違和感があるかもしれませんが、慣れると腹部を締め付けやベルトの蒸れもないので快適な履き心地を実感していただけると思います。
また、前カンの周囲は画像にあるように薄く仕上げてあります。
吸い付くような腰裏。
腰回りは腰裏を二重につけることで、ベルトがなくても腰にフィットするような構造にしています。腰履きだとずれ落ちやすいのでそれを防ぐための措置としてこのような腰裏を導入しました。
腰裏の素材は綿で作られたスレキを使っています。綿の繊維は細かいのでそれゆえインナーに引っかかる効果を見込んでのことです。
マーベルトと呼ばれるシリコン製の滑り止めを使うという選択肢もありましたが、吸着力が強いのでパンツまで脱げたら大変だと思い採用しませんでした(そんなことはないとは思いますが)。腰裏は履いてしまえば見えない箇所ですが、履き心地に大きな影響を持っているので重要です。
決して伸びないベルトレス。

ベルトを取り除きましたが、それで着心地が悪くなるようなことがあれば本末転倒です。今回は腰裏にプリーツを入れてるので動いたりしても腰にスレキが沿うので問題ありません。
内側が外側の足を引っ張ることがあってはいけません。なので裏地(腰裏も含めて)は必ずゆとりを持って裁断します。結果として裏地がシワだらけになりますがそれはいい服の証拠です。
ベルトレスとは言っても腰芯はしっかり入れました。外側から見ればベルトのないデザインですが、内側にはベルトがあります。正確には腰裏の下です。
画像ではラベンダー色の縞スレキに腰芯(ダック芯)を包んでステッチで叩いてあります。正に縁の下の力持ちといった感じで、これがあるだけで変にウエストが伸びることも無いですし、腰のラインに合わせた緩やかなカーブを演出します。
見えないけれどもある○○。
謎のディテール「裾シック」を考える。

裾シックはそこまで一般的ではないように思います。
裾シックとは裾の前側にだけバイアスのスレキを当てる仕立てのことをいいます。一部のテーラーはやってるかもしれませんが、私も本に載っていたので導入してみました。
テーラリングの本の弱点でもありますが、なぜこのようになるのかといった理由はほとんど明記されていません。自分で考えろというわけですかね。。
- モーニングカット(前が短く、後ろが長い裾=このスラックスもそうです)の際にどうしてもカーブがキツくなり縫い代をまつりにくくなるので、それを補助する目的
- クリースライン(折り目)を出やすくする
- 縫い代のアタリを出にくくする
- 単に破けにくくするための補強
- 足が引っかからないようにする
間違っているのもあるかもしれませんが、ないよりあった方がいいような気もします。最も納得できるのは最初にあげた理由かなぁ。。
このスラックスのモーニングカットはそこまでキツい傾斜じゃないので、あまりありがたみを感じませんでした。しかし、切り替えずにアイロンだけで折った折り返し分をいせ込むにもウールの性質上限度があるので(限界突破した人は除く)そういったデザインの服を作るときは応用が効くと思います。
結局、モーニングカットはくせとり前提で進めていくものだと思います。私は大したくせとり技術がないせいもあって、前と後ろ身頃の縫い目を折り返し線のところまでにしておいてから縫い目が開くように工夫しました。
もはやくせとりに対する敗北宣言のように取られても異論はないですが、なかなか綺麗に収まりました。モーニングカットを大量生産する機会があれば取り入れても面白いかもしれません。
靴ずれが教えてくれるもの。

この長方形の布は靴ずれ布と言い、某紳士服のスラックスでさえ取り入れるほどのベーシックなものです。名前のとおり、裾の折り目が破けないようにするための補強布です(1mmほど折り目より出してある)。
とはいっても裾が破けるのはサイズが合ってないのが大きな要因であって、これに頼りすぎるのは良くないと思います。本来は裾を引きずるのでなければそう簡単には破けないものです。
この靴ずれのように耳をデザインの一部として使う方法もあります。破ける破けないにかかわらずどんな生地を使っているのか分かるのでデザインとしては面白いのでは。
股下には見せたくないものがある。

股下には棒シックと呼ばれる補強布をまつり付けています。前回のスラックスの記事でも触れましたがボロ隠しの意味合いもあります。
ちゃんとしたサイズを選べていれば股下が擦れることはほとんどないので、これがなくても問題ないだろうというのをたまに思います。アイロンも掛けにくいですしね。
このようにまつってあるタイプはオーダーメイド仕様でして、一般の既製服だと楕円形の布に股下の縫い代の部分にちょんと糸ループで留めてあるものが多いと思います。
ブランドによって様々な形があるので覗いてみるのも勉強になりますよ。
生地について。
表地は前回のジャケットの記事で説明済みですのでぜひそちらを参照してください。ここでは使用した副資材について簡潔にまとめておきます。リンクを貼ってあるので、スラックスを作る人の参考になればと思います。
都市部にお住まいの方でしたら問屋街に行けば様々な副資材が手に入りますが、地方に住んでるとそうはいかないです。あまり在庫を持ちたくないですしね。
下記のショップは私がよくお世話になっており、最高級の副資材を購入できます。こういったニッチな素材は売られている所が限られていますから非常にありがたいです。
腰回りを支える「腰芯」。
こちらはウエストベルトに使用した芯です。この芯を使った仕立ては非常に手間がかかることから今ではあまり用いられないクラシックなものです。
現代では複数の材料を貼り合わせてある出来芯が主流となっています。
紳士服を意味する「縞スレキ」。
これを見れば「The紳士服」という感じのする縞スレキです。高級感があり、値段も他の無地のスレキに比べると高いです。
主にスラックスの腰裏に使われます。しかし、なぜこの縞スレキが腰裏に使われるようになったのかは分かりませんでした。紳士服には意外な理由で存在するものが多いので、この縞スレキも何かしらの面白い理由があるのだと思います。
ポケットに最適な「フランス綾のスレキ」。
フランス綾のスレキです。通常の平織スレキに比べて地合いが柔らかいので、肌に触れる部分に使用すると優しさを感じます。
フランス綾とは詳しく調べると、太い綾目が2本以上、または太い綾と細い綾目が2本以上組み合わされて、はっきりと綾目の見えるものをいうそうです。
ところで、綾織といえばデニムが連想されますよね。デニム=強度があるということでスラックスのポケットなど使用頻度が高い箇所は綾織スレキの方が向いています。逆にジャケットのポケットなどそんなに使わないポケットであれば薄い平織スレキを使う方が賢明かもしれません。
あくまで合理的に考えればですが。
サイズについて。
ウエスト | 83cm |
ヒップ | 122cm |
ワタリ | 28cm |
裾幅 | 22cm |
前ぐり | 23cm |
股下 | 77cm |
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