前回はジャケットで使用する生地の裁断まで終わりました。今回の記事ではジャケット作りでとても重要な毛芯を利用した前芯作りについてまとめていきます。
見えないけれど重要な前芯。
①:一からの台芯作り。

まずは骨格となる台芯から作っていきます。市販のジャケットには予め組み上げられた「出来芯」が使われることが多いですが、今回は一からです。
台芯は服の中でも特に謎、というか世の中には本当に数えられないぐらいのパターンがあります。それらを踏まえつつ自分の理想とするシルエットを実現するために何度も頭の中で考え、納得して初めて型紙を引くことができます。
この芯地の形やダーツの取り方も私なりに考えたオリジナルです。結果的に上手く収まりましたが、まだまだ改良が必要だと感じています。
②:ハリのあるバス毛芯。

バス毛芯(馬の毛を使ったハリのある生地)は胸のボリュームを出すために使います。
芯地もダーツをとりますが表地とは違い、余分な厚みを出さないために突き合わせにします。
その際に袖裏のバイアステープをジグザグに縫い付けます。地味な作業ですが、きちんとダーツが閉じないと意味がないので慎重さが必要です。
あと、分かりにくいですが袖の出来上り線や裁ち端に捨てミシンをしています。理由としては、生地が伸びないようにするためとほつれにくくするためです。
最後にダーツを入れることにより発生したゆとり分を保ちつつ、ちょっとだけ大きめにフェルトを裁断し糊付けします。フェルトを入れることで適度な厚みが生まれると共に表地との馴染みも良くなります。
③:台芯とバス毛芯をドッキング。

でき上がった①と②をドッキングしていきます。
この作業は緩やかにカーブしたラバン馬と呼ばれる台の上で行います。人間の身体はなだらかな曲線を描いているのでそれをイメージしながら。。この時に気をつけるべきは肩にあったボリュームを袖ぐりに回すことです。
上記のラバン馬は私が使っているものと同じです。アダムの馬は良質なのでオススメします。
着心地を左右するポイントに「前肩」と呼ばれるものがあります。人体を横から見ると肩は胸を張らない限りは前に出ているものです。特に日本人はその傾向が強いと言われています。
④:テーラリングの醍醐味「ハ刺し」。

③で仮止めした芯地を「ハ刺し」で一体化させていきます。
1針ずつできるだけ裏側に糸が出ないように生地をすくっていきます。2枚の生地を微妙にずらしていくことで立体的なシルエットが生まれるというわけです。
既製品の場合だとハ刺し専用の特殊ミシンがあります。確か文化にいる時に地下でそれを見たような。。
ミシンでも十分な形にはなりますが、やはり手縫いのさじ加減には敵わないと思います。いや、思いたいですね、じゃないとやってる意味がないので。。
ハ刺しに使う糸はしろもやカタン糸、絹糸など作り手によって違ったりします。このジャケットではしろもを使っています。もしラペルが有るのなら裏から糸が見えるのでその箇所だけ絹糸かカタン糸を使います。
気をつけていることは糸をきつく締め過ぎないことです。後から何度もアイロンを当てると自然に糸が蒸気を吸って締まってきます。また、湾曲した外回りなので当然ですがその分のゆとりを確保しなければなりません。
糸の色は気にしないでください。しろもと言いつつも白くないです。1回目はあかも、2回目はくろもで縫っています。
⑤:仕上げのテープ貼り。

この赤色矮星みたいなのがハ刺しの裏側です。
最後に胸増し芯の際にスレキのストレートテープ(自分でカットした)を真っ直ぐ縫い付けていきます。不思議なことにこのテープを真っ直ぐ付けることで芯のロールが固定されます。
縫うときは左手で芯をロールさせつつ、右手で芯をミシンを送る感じです。何とも器用な方法ですが、縫い終わったら芯が立体になっているので感動。。
P.S. 書いてないですが、各工程ごとにシッカリとアイロンをかけています。ジャケット作りではアイロンが非常に重要です。
これで前芯作り完成。
完成した前芯を人台に当ててみました。残念ながらメンズ用がないのでレディースで代用しています。メンズボディ欲しい。。とはいえ逆にバストがある分、胸のボリュームが分かりやすいかもしれません。特に横から見たときなど、前肩も大丈夫そうです。
今回は実験として前芯を肩甲骨の手前まで延長して肩パッドを省いていますが、思ったよりもいい感じです。バス毛芯の裁ち端はチクチクするのでスレキでパイピングしています。
続く。