【№10】と題して前回、前々回とスーツの記事を書いてきましたが、今回はその製作過程に焦点を当てます。普段は見れないジャケットの内部に関しても解説していくので、服を作っている人やそうでない人にも楽しんで頂けたら嬉しいです。
今までの服も製作過程を画像を使って説明できればよかったんですが、あいにく写真を撮ってなくて説明のしようがなかったわけです。画像があればなんとか思い出せるのですが:O。
幸運にも、今回のジャケットに限って記録として残しておいた画像があったので誰かの参考になればいいなという思いもあり、こうして記事を書いています。ちょっと画像多めですが、工程ごとに説明しながら進めていきます。
初めが肝心な裁断。
①:まずは地直しをしっかり。

上の画像は今回スーツに使用した生地や副資材の全てです。こう見るとシンプルなデザインでも意外と様々な生地が使われています。これらの生地を裁断していきますが、まずは裁断をする前に必ず地直しをして布目を整える必要があります。
なぜなら、織物に使われる繊維の性質(織り方、混紡の具合など)によって水分を吸収した時に縮んだり、歪んだりするものがあるからです。特にコットンやウールは縮みやすく、逆に化学繊維はほとんど縮まないので水に浸けなくても問題ありません。
- 表地:刷毛で水を塗り付けて、アイロンで蒸発させることにより生地を縮ませる。その作業を両面行った後、風通しの良い場所で一晩乾かす。
- 芯地:水の中に一晩浸けておく。それから自然乾燥させてアイロンで地の目を整える。
- スレキ類:水に1時間浸けておき、自然乾燥。その後、地の目を整える。
- 裏地:歪みがなかったのでそのまま使用。
たしか丸1日はかかったはずです。詳しい生地の説明は前回したので今回は割愛します。
②:布目を意識した裁断。

裁断をする際に最も気をつけなければならないことはきちんとした布目です。布目が歪んでいると後々厄介な事になるので慎重に行わなければなりません。幸いにも表地はストライプが入っていてそれが目印になるので裁断しやすかったです。
ストライプは柄合せをする必要がありますが、それを差し引いても無地の生地よりも確実に裁断できるという安心感はあります。前中心、袖山線そして後ろ中心を特に気をつけます。
ただ、中表にして2枚いっぺんに裁断するとずれるので別々にカットする必要があり時間はかかります。後で修正することを考えて多めに縫い代を取るとGoodです。
そういえば、テーラーの中には補正することを考えて何センチも縫い代を付ける人が居るそうです。これは完全に考え方の違いですが、体型が変わりやすい人もいれば、何年も同じ体型を維持し続ける人もいるわけでクライアントに合った方を選べば問題ないと思います。
今回の場合、後から大きな補正をすることはないと思って製作しているので最終的な縫い代はそこまで多くはありません(既製品として)。
写真には撮ってませんが、裁断した後はそれぞれのパーツ毎(表地のみ)にくせとりを行います。くせとりとはウールが持っている熱可塑性を利用した技法で、切り替え線だけでは出せない立体感をだすために用いられます。シンプルに言うと熱と蒸気で布目を曲げてしまうわけです。本縫い時にも行うので軽めにしておきます。
③:核となる毛芯の裁断。

画像左からフェルト、毛芯、バス毛芯です。真ん中のテープは袖裏をバイアスに切ったもので、毛芯のダーツを縫う際に使います。
この画像では分かりにくいかもしれませんが、かなり大きめにカットしました。後から表地に合わせてトリミングしていきます。余る分は問題ないですが、足りなかったら大変ですので。
続く。